さくらのIoT

IoTプラットフォームは、データの蓄積や分析で、クラウドが重要な役割を担います。IoTデバイスから収集したデータを、クラウド上で保存、分析、可視化することで、さまざまなビジネスや社会課題の解決に役立てることができます。この記事ではIoTプラットフォームとクラウドとの関連性を中心に、機能や効果と各種業界での利用方法や導入ポイントを解説します。

IoTプラットフォームとは?

IoTプラットフォームとは、IoTデバイスから収集したデータを分析・活用するための基本となるシステムです。主にIoT開発環境としてのクラウドで利用され、オンプレミス環境(自前の開発環境)より、クラウドを利用したほうが開発環境の調達に利点があるため、IoT分野もクラウド化が進んでいます。

IoTプラットフォームの役割と機能

IoTプラットフォームはIoTシステムの司令塔が主な役割です。代表的な機能はビッグデータの蓄積、人工知能(AI)による統計処理、プログラムの実行、デバイス管理などです。

IoTクラウドのプラットフォームの種類

IoTプラットフォームのクラウド環境は「開発環境」と「検証環境」の2種類に大別できます。

開発環境のクラウド

開発環境のクラウドは、利用開始も利用廃止も容易にできる上に、サービスの利用度合いに応じた費用負担で済ませることができる「クラウドサーバー」を利用して構築する開発用の環境です。

開発環境

検証環境のクラウド

検証環境のクラウドは、動作検証に必要な条件(OS種別、ハードウェア、ライブラリ、及び、それらのバージョン)を満たす環境を「仮想マシン」としてクラウドサーバー上に予め準備をしておきます。メリットは検証環境の仮想マシンの切り替えのみで、復旧や複製が容易にできることや、「初期状態」に戻してから検証し直す「スクラップ&ビルド」なども迅速にできる点になります。

検証環境

IoTプラットフォームのメリットとデメリット

IoTシステム開発のプロジェクトにおいて、技術も人も流動する中で、クラウドが有する柔軟性や迅速性が効力を発揮します。主なデメリットはクラウドがインターネットに依存しているのことに起因することですが、統合開発環境(IDE)はWebブラウザから利用できるため、利用しやすい点はメリットともいえます。

メリット デメリット
開発環境構築の容易さ インターネット接続が必須
開発環境スペック変更の柔軟さ 回線輻輳時のレスポンス悪化
開発者増減の対応 クラウドサーバー障害リスク
開発者の自由度の高さ 継続課金されるクラウド利用料
開発環境の統一(標準化) サイバー攻撃を受けるリスク
開発環境の最新化 IDEの機能に制約がある

IoTのプラットフォームサービス(PaaS)

IoTプラットフォームは主にIaaS、PaaS、SaaSと分類できます。クラウドの中のプラットフォームに位置するのが、PaaS(Platform as a Service)で、IoTサービスの実現に便利な機能を集めた(統合した)クラウドです。例えばIoTデバイスとの通信を仲介したり、データを蓄えたり、可視化するという機能をミドルウェアとして提供します。また、何らかの意図があってエンドユーザーに価値を提供するのがSaaSであるため、IoTサービスの司令塔はSaaSです。代表的な機能はビッグデータの蓄積、人工知能(AI)による統計処理、プログラムの実行、デバイス管理などです。SaaSが価値提供を実現するために利用するのが道具箱たるPaaS(IoTプラットフォーム)になります。PaaSの優位点は「開発者が環境構築の手間を掛けずに、アプリケーション開発に専念できる」ことです。

SaaS,PaaS,IaaS
PaaSは「OS環境」までをクラウド化しますので、開発環境構築に手間がかかりません

IoTのPaaS機能

IoTのPaaSは、アプリケーション開発も必要とされますが、デバイス開発、通信回線なども必要とされますので、それらの中継役としての役割も果たします。

データ収集・蓄積機能

収集から蓄積の流れは、通信しているIoTデバイスからアップロードされたデータを収集し、クラウドサーバーで処理されたあとに蓄積されます。

データ分析・可視化機能

分析から可視化の流れは、クラウドサーバーに蓄積されたビッグデータを人工知能(AI)で統計分析させることで、データ構築されます。AIサービスは、例えばIoTプラットフォームとAPI接続をしビッグデータを分析をすることで高度なデータ解析が可能になります。解析したデータを、Node-REDで文字列の分離や数値計算をしGrafanaなどのダッシュボード画面でグラフ化することで、データの可視化が実現できます。以下は、弊社エンジニアが取り組んでいる事例で、設置した水位計の情報を統合してグラフ化した運用例です。水位の履歴や各河川の現在の状況を確認しやすいように構築しています。

さくらのモノプラットフォーム

さくらのIoTでもIoT PaaSで「さくらのモノプラットフォーム」が存在します。IoTミドルウェアの特徴として、デバイス接続、データ収集、データ処理の役割をします。主な機能は、システム構築を支援するプラットフォーム、IoTデバイス開発のための設計情報、マルチキャリア対応通信回線を一貫して提供します。さくらのモノプラットフォームはIoTシステム開発を支援するサービスです。

IoTプラットフォームの機能と効果

IoTプラットフォームは「コネクティビティ」「デバイスの管理と制御」「データの蓄積と処理」が重要な機能です。IoTデバイスから収集したデータを、クラウドに蓄積・管理し、アプリケーションやネットワークに配信する機能も備えています。具体的な効果は、業務自動化などによる「効率化」や、蓄積されたデータを活用することで異常検知や予測分析の機能を用いて安全性や生産性向上に伴う「高度化」、新たな製品やサービスやビジネスモデルの創出が期待できることから「革新」という効果が期待できます。また、IoTプラットフォームのセキュリティ対策も重要です。IoTシステムの安全な運用を実現するために不可欠であるため、IoTシステムを構築・運用する際には、セキュリティ対策を十分に検討し、対策を講じることが重要です。

コネクティビティ(ネットワーク接続性)

IoTのコネクティビティは、IoTデバイスがネットワークに接続する技術です。IoTデバイスは、センサーやカメラなどの機器からデータを収集し、ネットワークを介してクラウドや他のシステムに送信します。これらのデータは、分析や処理によって、新たな価値を創出することができます。IoT通信はパソコンやスマートフォンで利用するインターネット通信とは異なる特徴があります。特に野外(僻地)に設置している通信デバイスでは「低容量かつ低速度で低消費電力」の3低が要件とされるので、IoTに特化しているSIMを利用した通信方法が必要とされます。

さくらのセキュアモバイルコネクト

さくらのIoTでもIoTネットワークサービスとして「さくらのセキュアモバイルコネクト」が存在します。IoTデバイスと接続できるSIMを提供しており、IoT向けのモバイルネットワークサービスです。

さくらインターネットのIoT SIMの特長

コスト削減
ムダのないシンプルな料金体系で運用コストを削減

1回線のSIM 基本利用料は月額13円、さらに通信がない月は0円と、通信コスト最適化が可能です。

安定通信
マルチキャリア対応で広い範囲で安定した通信をご提供

1枚のSIM&1つのAPN設定で国内3キャリアに接続可能。通信環境に合わせて、お好きなキャリアをご選択いただけます。

セキュリティ
閉域網ネットワークでセキュリティ面も安心

インターネットを経由しない「閉域網※」で、外部からの攻撃を高いレベルで防ぎます。

※閉域網とは、グローバルIPアドレスを持たずインターネットから直接の到達性を持たないネットワークを示します。

デバイスの管理と制御

IoTデバイスの管理と制御とは、IoTデバイスの状態や動作を監視し、必要に応じて設定やアップデートを行うことです。具体的にはデバイスの「登録と認証」「状態監視」「設定管理」「アップデート」を通じてIoTシステムの正常な運用を維持します。

データの蓄積と処理

IoTデータはデバイスから収集した微細なデータをクラウド上に蓄積していけば、やがて「ビッグデータ」となります。ビッグデータ自体には価値がありませんが、処理をする「人工知能(AI)」により、統計分析から得られる「法則性」こそがIoTデータの価値になります。IoTデータは構造が不明確なデータも扱えるようにするため、処理する場合にも「構造化データ」すなわち、データベースや表計算ソフトのセル状に格納されているような構造にする必要があります。それ以外の「非構造化データ」は、XMLやJSONのような「半構造化データ」を用いて「構造化データ」に処理をする流れになります。IoTデータは、構造化データを用いて人工知能で解析をし法則性を導き出すことに価値があります。

セキュリティ対策

IoTプラットフォームは、IoTデバイスから収集したデータを、クラウドに蓄積・管理し、アプリケーションやネットワークに配信する機能を備えています。そのため、IoTプラットフォームのセキュリティ対策は、IoTシステム全体のセキュリティ対策において重要な役割を果たします。主な方法は「認証・認可」「暗号化」「アクセス制御」「脆弱性対策」「インシデント対応」「クラウドセキュリティの利用」「セキュリティソリューションの導入」「セキュリティ専門家の活用」等が挙げられます。弊社のサービスである、さくらのマーケットプレイスでは、IoTセキュリティに限らずシステムに対して外部からの不正アクセスや内部情報を漏えいの対策としてセキュリティサービスを提供しています。

様々な業界でのIoTプラットフォーム導入と対応

2018年、内閣府が第5期科学技術基本計画において、日本が目指すべき未来社会の姿として「Society 5.0(ソサエティー5.0)(人間中心社会)」が提唱されました。Society(ソサエティー)とは、「狩猟社会(Society1.0)」「農耕社会(Society2.0)」「工業社会(Society3.0)」「情報化社会(Society4.0)」とバージョンが存在するものです。IoTが実現するSociety5.0が目指す社会は、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合し、経済発展と社会的課題の解決が両立した新たな社会のことです。IoTは、Society 5.0の実現に欠かせない技術であり、その可能性は非常に広大です。例えば、製造業における生産効率の向上や、物流の効率化、医療や介護の質の向上、環境問題の解決など、さまざまな分野で活用が期待されています。IoTが社会に浸透することで、私たちの生活はより便利で、より快適なものになるでしょう。

産業向けIoTプラットフォーム

産業向けIoTプラットフォームは、製造業、物流、エネルギー、医療など、さまざまな業界で活用されており、センサーや機器から収集したデータを、集約・分析・可視化する機能を提供するためのシステムです。産業分野ではIoTが普及していくことで、ビジネスモデルも含め、環境が大きく変わっていくと言われています。産業分野においてIoTの影響は受けない分野はなく、急速に進む大きな流れに対応していかなければなりません。従来、特定の人しかできなかったことが、IoTの技術により、簡単に安価で行うことが可能となっていきます。また、企業間や業界間の壁がなくなり、自社の業界や分野だけを気にする時代ではなくなります。産業(Industry)用IoT(IIoT)を実現するためには、センサーや機器から収集したデータを、効率的に活用することが重要です。産業向けIoTプラットフォームは、その役割を担い、企業のデジタルトランスフォーメーションを支援します。

医療分野でのIoTプラットフォーム活用

医療分野でのIoTプラットフォームは、医療現場で使用されるIoTデバイスから収集したデータを、集約・分析・可視化する機能を提供するためのシステムです。医療(Medical care)IoT(IoMT)を実現するためには、IoTデバイスから収集したデータを、効率的に活用することが重要です。医療分野のIoTがもたらす価値は、早期発見・早期治療につながる「患者の健康状態のモニタリング」、医療機器の稼働状況や医薬品の在庫状況の把握、遠隔診療やオンライン服薬指導などで活用される「医療の効率化」、予防医療にもつながる「新たな価値の創造」です。IoTプラットフォームで、その役割を担い、医療の質の向上や効率化を支援します。

製造業におけるIoTプラットフォームの利用

製造業においては、「第4次産業革命(Industry 4.0)」と呼ばれる、ドイツ政府の高度技術戦略から生まれたプロジェクトである「スマート工場(スマートファクトリー)」の実現で、新しい価値やビジネスモデルの創出を目指す取り組みが進んでいます。スマートファクトリーとは、製造設備が互いにつながり人の介在なくして、部品手配や製造工程の最適化を行うことができる次世代工場です。また異なるメーカーの製造設備がネットワークでつながり、企業をまたいだ製造活動が可能になります。IoTプラットフォームの利用で、製造現場のIoTデバイスに取り付けられているセンサーやカメラやRFIDタグのあらゆる機器や設備からデータを収集し、分析することで、生産性の向上や品質の改善、コスト削減などの効果を期待できます。製造業におけるIoT導入メリットを解説しましたので、詳しくは以下のボタンより記事をご覧ください。

IoTプラットフォームの選択と導入のポイント

IoTプラットフォームを導入するにあたり「データ収集・管理・分析」「セキュリティ対策」「拡張性・カスタマイズ性の検討」を中心に選択を検討する必要があります。これらをポイントに、導入時は自社のニーズを明確にし、複数のプラットフォームを比較検討することが必要です。また導入後の運用も見据えることで、自社に最適なIoTプラットフォームが見えてくるでしょう。

データ収集・管理・分析の対応

IoTプラットフォームの「データ収集」は、ネットワークの規則である「プロトコル」、Wi-Fi、LTEなどの「通信方式」、構造化されているCSV、XML、JSONなどの「データ形式」についての対応をサポートしています。「データ管理」は、大量のデータを扱うストレージで「蓄積」、データの統合や変換などの「加工」、暗号化やアクセス制御などの「セキュリティ」についての対応をサポートしています。「データ分析」は、グラフや表の「可視化」、統計分析や機械学習、深層学習などで「分析」の対応をサポートしています。導入ポイントはデータの「量や種類」「保存期間」「分析方法」、また初期費用や月額費用などの「予算」について検討すると良いでしょう。

セキュリティ対策の重要性

セキュリティ対策はIoTプラットフォームに限定せずIoTを構成している全体に向けて考える必要があります。それに伴いIoTセキュリティ守備範囲は広大であるため、まずは合格最低ラインの対策を目指すように取り組む事から始める必要があります。IoTプラットフォームを含むIoTシステムには、悪意のある第三者への侵入口が多く開いていますが、特に重要な部分は「構成要素の連結部(インターフェイス)」です。これらにはIoTシステム外部の入口が存在するため、サイバー攻撃対策が必要になります。多数のIoT関連企業で構成される「IoT推進コンソーシアム」という業界団体では、団体の組織としてIoTセキュリティWG(ワーキンググループ)が存在し、成果物として「IoTセキュリティガイドライン」を策定しました。IoTセキュリティの導入ポイントは、以下の表にまとめてあるような、IoTセキュリティガイドラインを遵守することで、体系的に評価と対策を進めることができるでしょう。

フェーズ 指針 要点
方針 IoTのリスクを認識する
  • 経営者がIoTセキュリティに
    コミットする
  • 内部不正やミスに備える
分析 IoTのリスクを認識する
  • 守るべきものを特定する
  • つながることによるリスクを想定するように伝える
  • IoTシステム・サービスにおける関係者の役割を認識する
  • 脆弱なデバイスを把握し、適切に注意喚起を行う
設計 守る設計を考える
  • つながる相手に迷惑をかけない設計にする
  • 不特定の相手と繋げられても安全安心を確保できる設計を考える
  • 安全安心を実現する設計の評価・検証を行う
構築・接続 ネットワーク上での対策を考える
  • 機能及び用途に応じて適切にネットワーク接続をする
  • 初期設定に留意する
  • 認証機能を導入する
運用・保守 安全安心な状態を維持し、情報発信・共有を行う
  • 出荷・リリース後も安全安心な状態を維持する
  • 出荷・リリース後もIoTリスクを把握し、関係者に守ってもらいたい

拡張性・カスタマイズ性の検討

IoTプラットフォームの拡張性は「水平拡張性」と「垂直拡張性」に分かれます。水平拡張性はIoTデバイスの数やデータ量が増加してもパフォーマンスが維持できる点で、垂直拡張性は、IoTプラットフォームに新たな機能を追加できる点になります。カスタマイズ性はプラットフォームの一部の「機能」を変更できる点と、「デザイン」が変更できるかという点に分かれます。導入ポイントは、将来的にIoTデバイスが増加することと増加するデータ量の把握、自社のニーズに合わせてカスタマイズをする必要があるか、またこれらの費用もあわせて検討する必要があるでしょう。

まとめ

最後にIoTプラットフォームについてまとめます。

  • IoTプラットフォームはIoTデバイスから収集したデータを分析・活用するための基本となるシステム
  • IoTプラットフォームはクラウド化が進んでおりPaaSの領域でも活用される
  • IoTプラットフォームの重要な機能は「コネクティビティ」「デバイスの管理と制御」「データの蓄積と処理」
  • Society 5.0(人間中心社会)を実現するために様々な業界でIoTプラットフォームが活用される
  • 導入ポイントは「データ収集・管理・分析」「セキュリティ対策」「拡張性・カスタマイズ性」を中心に検討することが好ましい

IoTプラットフォームは、IoTの普及に伴い、今後ますます重要となるシステムです。IoTプラットフォームを活用することで、ビジネスや社会課題の解決に貢献するサービスを生み出すことも可能です。

参考
  • 図解即戦力 IoT開発がこれ1冊でしっかりわかる教科書 IoT検定パワーユーザー対応版(技術評論社)
  • 図解即戦力IoTのしくみと技術がこれ1冊でしっかりわかる教科書IoT検定パワーユーザー対応版(技術評論社)
  • 60分でわかる! IoTビジネス最前線[改訂2版] (60分でわかる! IT知識)(技術評論社)
  • Society 5.0(内閣府)
  • IoTセキュリティWG(IoT推進コンソーシアム)
2023年9月公開