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さくらのIoT

ヘルスケア業界は、少子高齢化が進む背景から要介護者の急増と不足する介護人材により、高齢者の日常生活を助けてもらうことが困難になると予測されます。医師が都市部に集中してしまうことで、地域医療で医師不足の問題が発生し、患者が十分な医療を受けられなく人々の生命を脅かす重要な問題にも直面します。また、少子高齢化が進むと社会保障費の急騰により、労働者の社会保険費用が高額になり、十分な社会保障を受けられない恐れもあります。継続的な社会保障制度の改革が求められると同時に、医療・介護といった公的サービスを質は維持しながらも、効率的に運営していくための方法が検討される必要があります。スマートヘルスはこれらの社会問題を解決できる手段の一つとして注目されています。

スマートヘルスの概念とその効果

スマートヘルスは人々の健康管理をITや通信技術を用いて行うことです。日本でもデジタル庁がスマートヘルスを推進しており、人々が健康で豊かな生活を送ることができる社会の実現が期待されています。

スマートヘルスとは何か

スマートヘルスとは、ICT(情報通信技術)を活用したヘルスケアのことであり、医療・福祉サービスの質の向上や、患者や利用者のQOL(生活の質)の向上を目指すものです。具体的にはウェアラブルデバイスや遠隔治療、AI(人工知能)を活用して、予防医療の促進、医療の効率化・高度化、患者の主体性の向上を目的にして取り組むことです。

ヘルスケアとは?

ヘルスケア(Healthcare:健康管理)とは、狭義の意味で医療や医薬分野の機器やサービスのことです。広義の意味では健康や体調管理といった医療行為以外の要素が含まれます。日本では少子高齢化が進行し超高齢化社会となり、高齢者の健康管理や医療、医薬に関する事業環境を中心に大きく変化しています。企業が取り組む「デジタルトランスフォーメーション(DX)」では、その先に存在するデジタライゼーションに取り組むと同時に、異業種のITプラットフォーマーとヘルスケア事業との関連性が深まっていくことも予測されます。また、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、人々の健康管理への関心が高まる中、ヘルスケア事業の役割は一層重要な存在になっています。

スマートヘルスがもたらす医療・健康へのメリット

スマートヘルスは様々なメリットが生み出され、ICTの活用により今まで取り組めていなかった分野にも踏み込めるようになり、新しい医療サービスが誕生すると期待されています。

メリット 具体的に期待できること
予防医療の促進 ウェアラブルデバイスなどの活用により、健康状態を継続的にモニタリングすることで、病気の早期発見・予防につなげることができる。
医療の効率化・高度化 遠隔医療やAIなどの活用により、医療の効率化・高度化が進み、医療費の削減や医療の質の向上につながる。
患者の主体性の向上 ウェアラブルデバイスやオンライン診療などの活用により、患者は自分の健康状態を自ら管理しやすくなり、主体的に健康づくりに取り組むことができる。

このようなメリットからリモートで提供する医療が実現したあとの可能性を考察します。規制緩和で医療をリモートで提供するようになると、リモート化が先行する非医療の分野と繋がる可能性があります。生命に関わる行為は以前と変わらず規制の対象になりますが、分野によっては医療と非医療の境目が曖昧になり両分野の連携が不可欠になります。具体的には次の2つのキーワードをもとにサービスが変わっていくことが考えられます。一つは「ジャストインタイム」で必要なときに必要なものが適切な方法で需要側に届けられるという概念です。例えばオンライン診療、服薬指導とドローンによる医薬品配送の組み合わせサービスにより、症状が軽い場合や遠方から通院が困難な場合でも、治療がリモートで完結できます。更には医師や薬剤師がフィットネス・トレーナーに代わり、医薬品が健康器具に代われば、医療行為以外にも応用できることになります。予防・治療・回復とその前後の各フェーズで、適切なサービスを全てリモートで受けることも可能になるかもしれません。もう一つは「パーソナライズ」で、技術革新によりデータがより細かくリアルタイムで取得されることで、ユーザにベストフィットするサービスを提供できるようになるというオーダーメード化が進むことです。ヘルスケア領域においてもリモートを前提としたパーソナライズサービスが出てきつつあります。

スマートヘルスデバイスの種類と活用方法

IoTは身の回りのあらゆる「モノ」がインターネットに接続されることにより、情報を交換したり他のシステムと連携したりすることが可能となる仕組みのことで、一般的にモノのインターネットの意味です。例えば、家電をスマートスピーカーに搭載されたAIアシスタントを使って声で操作ができます。AIやIoTを利用した技術進歩はヘルスケア分野でもイノベーションを起こし様々な製品やサービスの形となって私たちの社会の中にスマートヘルスとして浸透し始めています。

スマートウォッチとその活用方法

腕時計タイプのウェアラブルデバイスであるApple Watchを例に説明をします。時計としての機能だけではなく、サイクリングやヨガ、水泳、ランニングなどの運動時の状況を測定することができ、健康をサポートする様々な機能をもっています。例えば心拍数のモニタリングでは、通常よりも高い心拍数と低い心拍数を検知するとアラート表示し、本人に自覚症状がなくても異常を知ることができます。また、日本では医療機器としての認可が降りていないためまだ非対応ですが、心電図(ECG、Electrocardiogram)を測定する機能もあり、心筋梗塞などの早期発見にもつながっています。米国では、全く自覚症状がなかった利用者がApple Watchからの警告によって病院に行ったことで、重篤な症状に陥ることを防げ、命をとりとめた例がいくつも報告されています。

スマートグラスとその活用方法

スマートグラスはメガネ型のデバイスです。カメラやディスプレイやセンサーなどを搭載し、医療分野でも業務効率化や患者のバイタルサインのモニタリングや遠隔医療などを行うことができます。これにより、医療の質の向上や医療従事者の負担軽減などが期待できます。スマートグラスはまだ発展途上であるデバイスであるため、IoTの普及とともにこれから多くの医療現場で活用されていくことが予想できます。

スマートヘルス推進における戦略と革新的手段

スマートヘルスを推進するにおいてAIの活用が注目されています。IoTの技術でモノからデータを収集し、蓄積されたデータを解析する際に利用されるのがAIです。解析されたデータはある規則性を持ったデータに変わり人間やコンピュータが利用しやすくなることが特徴です。さらにAIはディープラーニング(人間が自然に行うタスクをコンピュータに学習させる機械学習の手法のひとつ)でコンピュータ自身が学び続けていくので、より良い結果を導くように提案をしてくれるようにもなります。AIとIoTの活用でさらにスマートヘルスの精度が向上することが期待できます。

AIとスマートヘルス

AIを活用したヘルスケアでは食生活の栄養管理やオーダーメードサプリメントの組み合わせ販売によって人々の健康を促進するサービスが存在します。スマートフォンで生活習慣や栄養状態などの質問に答えることで、サプリメントや自宅で調理ができる食材や既に調理されている冷凍食品などが届けられるサービスも存在します。
またオンライン診療と組み合わせたものも存在し、糖尿病患者などの生活習慣病への効果的な指導・管理や、血圧・血糖などの遠隔モニタリングを活用した早期の重症化予防など、対面診療と遠隔診療を適切に組み合わせることにより効果的・効率的な医療を提供するサービスも存在します。
医療分野でも疾患の早期発見や病変の見落とし防止のためにAIが利用されており主にMRIやCTから投影画像の画像解析で診断する機会も増えています。AIによる画像診断支援を進めていくためにはAIが学習するための大量のデータが必要になります。日本医療研究開発機構(AMED)の研究開発事業「医療画像ビッグデータクラウド基盤」では、日本病理学会や日本医学放射線学会など、診療画像に関係する6学会と国立情報学研究所(NII)の共同開発で、診療画像の大規模データベース構築、AI開発のための共通プラットフォーム構築など持続可能なAI開発へ向けた研究が行われています。

データ取得と利用によるスマートヘルスの推進

ヘルスケア分野で取得するデータには主に3種類存在します。1つ目は医療・介護機関内における専門家のためのデータ利用であるEHR(Electronic Health Record、電子健康記録)です。2つ目は複数の医療・介護機関の間での電子的な医療情報の共有を可能にするHIE(Health Information Exchange、医療情報連携)です。3つ目は患者と専門家の間での電子的な情報共有を行うPHR(Personal Health Record、個人健康情報管理)です。

健康・医療データの取得方法と活用法

EHRは簡単に言うと電子カルテのことで紙に書いているカルテよりも電子化が進んでいる医療機関が増えており、患者の病歴や治療歴などを各医療機関が継続的に記録することが必要です。
HIEは医療機関同士連携をして患者の健康情報を共有するシステム基盤です。大規模な医療介護プラットフォームが構築されれば、患者は通院する病院が変わっても医療・介護機関の情報共有により円滑に診断が可能となりより高度な医療サービスを提供できることが期待できます。
PHRは個人の医療・介護・健康データを本人が閲覧できるだけではなく、本人が収集した血糖値や体重などのデータをアップロードすることで、医師などの医療従事者にデータを見てもらうなどの双方向のやり取りが可能です。
EHR、HIE、PHRを連携した大規模プラットフォームができれば、今まで以上の高度な医療サービスが提供できるとともに、私たちの健康管理も便利になるでしょう。

医療・ヘルスケアの連携基盤の考え方

ヘルスケアに関係するPHRデータをもとに公的な医療データベースの構築例を説明します。BtoBでは医療・介護事業者と創薬・医療機器企業の水平共有をもとに医療機器や薬品の共同開発が期待できます。BtoCでは国民(消費者)と健康・保険事業者が個別最適化した健康・保険サービスの提供でサービスのパーソナライズ化が進むでしょう。また医療・介護事業者と創薬・医療機器企業の研究開発をもとに個別最適化した医療・介護サービスの提供が期待できます。データの垂直共有水平共有が進めば連携基盤などで基本的な情報のみを管理し、それ以外の必要な情報はマイナンバーや健康保険証番号を基点に既存の様々なデータベースから必要な時に連携をして取得することで、利便性が向上することが期待できます。

出典:患者+医師だからこそ見えた デジタル医療 現在の実力と未来 日経BP社

スマートヘルスの正しい利用法と注意点

スマートヘルスの利用法は様々な方法がありますが身近な例で、お薬手帳を利用した例をもとに説明をします。処方箋に貼っているQRコードを読み取ってお薬手帳のアプリに登録をしたこともあるでしょう。また、iPhoneではヘルスケアのアプリが存在するので、普段の歩数や睡眠データなどは自然と記録されています。

スマートヘルスデバイスとアプリの設定方法

ヘルスケアアプリの連携はお薬手帳との連携でスマートフォンアプリで電子化し一元管理が可能です。お薬手帳のQRコードを読み取って会員登録を進めるとサービスを利用でき、紙の手帳を持参しなくてもスマホアプリで管理ができることから、紛失・盗難の恐れが無くなり、また持参するのを忘れるミスも無くなるため便利なサービスです。
またiPhoneにデフォルトでインストールされているヘルスケアアプリには、健康に関するデータが蓄積されているため、それをもとに様々な健康管理に関するスマホアプリのサービスが市場に出回っています。

【出典】e薬Linkに対応しているお薬手帳(一覧):公益財団法人日本薬剤師会

ヘルスケアアプリの歩数や睡眠などの使い方

iPhoneに記録されている一日に歩いた歩数や一日の睡眠時間のデータは、そのまま見ることが出来ますが、Apple Watchと連動することでより精度の高いデータを記録する事ができます。Apple Watchを毎日身に着けて健康に関するデータを記録し続けていくと、同じiOS内にデータが蓄積されiPhoneで確認ができます。iPhone側でインストールしたヘルスケアアプリで、健康管理に関するデータを分析し個人に合わせた管理方法をアプリ内で最適化してくれます。米国では健康管理に関しては、医療機関の方で管理しているシステムと連携しているため、会員登録をしている人たちが万が一の病気や怪我に対して脈拍数などを読み取って異常を検知した際は、医療機関から通知が来るようになっています。早期発見により重篤な症状に至らず、命をとりとめた例も数多くあるようです。

情報の適切な取り扱いとプライバシー保護の重要性

ヘルスケア分野がデジタル化をすすめる上で重要となるのが「ID(Identifier、識別子)です。一般的に病院やクリニックで診療を受ける際には、医療機関が発行する診察券が必要で、その診察券は医療機関独自のIDが記載されてカルテ情報等は診察券のIDで管理されることになります。また、別の病院に行けば同じように、医療機関独自のIDでカルテ情報等が管理されていることになるでしょう。しかし人々は長い人生で、結婚をして名字が変わったり、転居して住所が変わったりなど、過去の病歴を記録したカルテが病院やクリニックに個別に保管されていれば、新たな医療機関で受診をする際に情報を集めて、担当医が理解する必要があります。情報を連携させるためには時間や手間が大きな負担になり、不足している情報も存在することで患者にとっては十分な医療を受けられない可能性もあります。デジタル化を進めるためには、広義のヘルスケア領域をカバーできるIDのあり方について、更に検討を進めていくことが必要とされます。

スマートヘルスによる生活と社会影響

日本では高齢化に伴う医療費の増大、少子化により医療費を社会保障費として支える体制の崩壊を背景に、政府主導による「治療から予防へ」の医療シフトの取り組みが進められており、この分野における期待や役割は今後ますます大きくなっていきます。

スマートヘルスによるライフスタイルの改善

スマートヘルスは、ウェアラブルデバイス、モバイルアプリ、医療機器などのテクノロジーを活用して、人々の健康とウェルネス(従来のヘルスと区別する目的で提唱される、より良く生きようとする生活態度)を向上させる方法です。スマートヘルスは、ライフスタイルの改善にさまざまな方法で役立ちます。
参考:ウェルネスとは:世界的な潮流と今後の展望について解説(ウェルネスの意味と概念)

健康管理と生活習慣の向上、医療へのアクセス改善

スマートヘルスは人々の健康とウェルネスを向上させるのに役立ちます。ウェアラブルデバイスは、心拍数、歩数、睡眠の質など、さまざまな健康データを追跡できます。このデータは、人々が自分の健康状態をよりよく理解し、目標を達成するのに役立ちます。スマートヘルスは、医療費の削減にも役立ちます。ウェアラブルデバイスは、早期発見と予防に役立ちます。これにより、人々は病気になる前に治療を受けることができます。これは、医療費の削減につながります。

ライフサイエンスとデジタル技術融合によるQOL向上

少子高齢化社会において、今後は医療費高額化と健康格差拡大への対応が必要になることも予測されており、未来の医療は健康・医療・介護の分野で連携をしてヘルスケアサービスが人々のQOL(生活の質)の向上にどれほど見合っているのか、客観的な効果指標の測定を通じた費用対効果の実施が一般的になっていくことも予測できます。生活者のQOLを底上げできれば、物質的な豊かさだけではなく健康を通じて精神的な豊かさや満足度も非常に重要な意味を持ちます。

項目 説明
①生命維持からQOL重視へ 豊かな社会生活を維持するための医療・介護の推進
②治療から予防へ 日常の健康管理を通じた発病や重症化の回避
③分散から連携へ 健康・医療・介護データの連携を通じたより精細な予防・診断・治療の提供
④効果に基づく管理・評価 客観的な効果指標の測定を通じた費用対効果の実施
出典:変貌するヘルスケア業界 -あらゆる企業がヘルスケア事業者に- 日本医療企画
(「未来社会構想2050」MRI政策・経済研究センター2019年)

このように生活者のライフデザイン&サポートと再定義されるヘルスケアにおいては、患者の病気の治療だけではなく、健康体の人も含めた全ての生活者のQOLの向上が目指されていくことが期待できます。医療とヘルスケアがより連携を深めれば「治療から予防へ」のシフトチェンジが加速されていくでしょう。

スマートヘルスと社会の未来

スマートヘルスは、社会のさまざまな側面に大きな影響を与える可能性があります。具体的には、健康とウェルネスの向上、医療の効率化、新しい産業の創出などで社会が変化する可能性があります。

社会全体への影響と期待、スマートヘルス市場の可能性

例えば「遠隔医療の普及」ではウェアラブルデバイスやモバイルアプリを活用した遠隔医療が普及し、患者は自宅や職場からでも医師の診察を受けることができます。これにより、患者の利便性が向上し、医療のアクセス性が拡大することが期待できます。「パーソナライズされた医療の実現」では、データを活用することで、患者の個々のニーズに合わせたパーソナライズされた医療を実現することができます。これにより、治療の精度や効果が向上し、患者のQOLの向上につながります。「介護の効率化」では介護スタッフは、患者の健康状態をリアルタイムで把握し、適切なケアを提供することができます。これにより、介護の質の向上や介護スタッフの負担軽減につながります。
このようにスマートヘルスは、これからの私たちの生活をより豊かで健康なものにしてくれるでしょう。

まとめ

最後にスマートヘルスについてまとめます。

  • スマートヘルスとは、ICT(情報通信技術)を活用したヘルスケアのこと
  • スマートヘルスは「予防医療の促進」「医療の効率化・高度化」「患者の主体性の向上」のメリットがある
  • スマートヘルスを活用することで「ジャストインタイム」と「パーソナライズ」を重視したサービスが誕生する可能性がある
  • スマートヘルスデバイスはスマートウォッチやスマートグラスなど身につけるもの
  • AIを活用することでEHR、HIE、PHRのデータ解析とともに活用することで医療の進化と健康促進が期待できる
  • スマートヘルスで医療の未来は「治療から予防へ」シフトすることが加速される
  • スマートヘルスを通じて私たちのライフスタイルの改善や人々が健康で豊かな生活を送ることができる社会の実現が期待されています。

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参考
  • 医療4.0 (第4次産業革命時代の医療) 日経BP社
  • 患者+医師だからこそ見えた デジタル医療 現在の実力と未来 日経BP社
  • 変貌するヘルスケア業界 -あらゆる企業がヘルスケア事業者に- 日本医療企画
  • デジタルヘルスケア (やさしく知りたい先端科学シリーズ5) 創元社
2024年1月公開