さくらのIoT

今回さくらのセキュアモバイルコネクトを活用した試作開発を実施していただいた伸和プリント工業様のご紹介です。伸和プリント工業様の本業は、42年の実績があるプリント基板の設計および製造であり、フレキシブルな基盤から高多層基板まで、プリント基板の設計から製造まで内製し供給されています。また、基板上にLSIや小さなチップ部品を搭載するロボットラインでの実装基板の供給も実現可能な企業様です。今回は、さくらのセキュアモバイルコネクトを活用し試作開発されたWBGTセンサーについて、開発の経緯や背景、試作内容について寄稿いただきましたので、是非ご覧ください。

開発の経緯

伸和プリント工業株式会社は5年前に開発事業部を立上げられ、様々な試作開発を行ってきました。

1.ウェアラブルなヘルスモニタ

当初はウェアラブルなヘルスモニタを志向し、国立大学の研究所や医療メーカー、印刷会社、素材会社の研究所からの試作開発を受託し開発実績を蓄積。

2.工場内の温湿度計測システム

社内実績として、さくらのVPSを活用した工場内の温湿度計測システムを開発し、現在も継続運用中。

3.BLE通信を使用した自社企画のIoTデバイス

指先脈波測定センサーや、環境測定センサー(温度/湿度/3軸加速度)の開発実績を保有。

4.工事現場での熱中症対策に活用できるIoTセンサーユニット

工事現場での熱中症対策として、ヘルメットに装着するWBGT(暑さ指数)測定センサーシステムの試作開発を実施。今回はこちらの試作開発ついて、掘り下げていきます。

作業員の熱中症対策でIoTを活用

昨今の気候変動により、屋外作業者に過酷な気候(高温、高湿度)となるケースが増加し、熱中症になるリスクが大幅に増加しています。現在熱中症リスクの対策として環境省から地域のエリア単位には暑さ指数(WBGT)の実況と予測がWebで公開されていますが、作業内容により作業員毎の環境は異なるため正確な指数を把握することが困難でした。そのため、作業員毎にリアルタイムにWBGTを把握できるIoTセンサーユニットの需要が見込まれると予測し、伸和プリント工業様の自社企画として、WBGTセンサーシステムの試作開発を2022年から開発しました。開発開始時の人員としては、回路設計1名、組込みソフト設計1名、クラウドアプリ設計1名で行っておりました。システム構成や機能概要を説明します。

5つの条件

屋外作業者をターゲットとするため、以下の条件をクリアする必要がありました。

  1. ヘルメットへの装着を前提として、センサーユニットはできるだけ小型化し、バッテリ稼働とする
  2. 計測データはクラウドサーバーで一元管理する
  3. クラウドサーバーにリアルタイムで送信するために通信回線としてLTE を選定する
  4. 作業場所も重要であり、GNSSでの位置情報の取得も考慮する
  5. LTEモデム機能制御など、組込みソフトの開発環境が充実していること

システム構成

WBGTセンサーのシステム構成は図の通りです。

システム機能概要

項目 説明
取得 WBGTセンサーは定期的(5分毎)に以下のデータを取得し、LTE回線経由でクラウドに送信する。

データの種類

  • デバイスID、データ取得日時
  • 大気温度/湿度、黒球温度、ヘルメット内温度/湿度
  • 3軸加速度、位置情報(緯度、経度、高度)
  • バッテリ電圧
蓄積 クラウドでは受信した大気温/湿度、黒球温度からWBGT(暑さ指数)を算出し、デバイスID毎にデータを蓄積する。
表示 インターネットに接続されたPCでWebブラウザによりWBGT表示アプリにログインすることで、デバイスを選択し、そのデバイスの最新のデータを表示(位置情報は地図にプロット)し 、自動的に更新する。
切替 近傍の他デバイスも同時に表示され、他デバイスをクリックすることで表示を切り替えることも可能。
集計 特定のデバイスの全データを日にち単位でダウンロードでき、データを使用してEXCEL等でグラフ化も可能。

機能

項目 説明
温湿度センサー 温度/湿度/黒球温度を計測し、クラウドでWBGT(暑さ指数)を算出
省電力通信 温度/湿度/LTE-Mによる省電力・広域通信を可能とする無線通信
位置情報取得 GNSSにより位置情報の取得が可能

諸元

型式 説明
型式 SS-LTE01
用途 WBGT(暑さ指数)計測
通信 LTE-M
電源 リチュームポリマ(720mAH)
有線/無線充電4時間、稼働300時間(5分周期時)
測定機能
  • 温度:-20℃~+85℃
  • 湿度:0% ~100%(結露なきこと)
  • 加速度:±16g、分解能13ビット
  • 位置情報:GNSS(GPS、みちびき)
大きさ D 25×W 80×H 56(突起含まず)/94(黒球含む)mm

ブロック図

WBGTセンサーユニット

無線給電台(原理試作)

試作開発を終えて

試作開発で工夫した点は主に4つあります。ポイントはハードの小型化により省電力化の実現、無線給電を採用、通信プロトコルにMQTTを採用、非同期式かつ全二重通信が可能であるUARTを採用などです。

LTEモデム機能を内蔵したMPU(Nordic社nRF9160)を採用

  • ハードの小型化、省電力化に大きく寄与
  • 組込みソフト開発に当り、豊富なSDKや事例を活用できた
  • 確認済みの外部アンテナと組合わせることで特段の技適対応が不要であった

バッテリ給電としてマグネット有線給電と無線給電を採用

  • 給電時の煩雑さの低減を図る
  • 無線給電用のアンテナはフレキシブル基板で作成

センサーユニットとクラウド間の通信にMQTTを採用

  • 収集データの拡張性、クラウド側機能の可搬性を図った
  • MQTTブローカを介在することで、組込みソフト/クラウドアプリの開発を同時並行できた

UART経由で設定変更、ログ出力を可能に

  • 収集周期、収集データの選択等を組込みソフトの更新なしに設定変更で対応
  • SIM関連(アクセスポイント名、キャリア)も設定で変更可能に
    ⇒ さくらインターネットの「さくらのセキュアモバイルコネクト」で、3キャリアの接続を確認
  • LTE状態、GNSS状態をログ出力し、デバッグの効率化

また試作開発で苦労をした点は、LTEの活用経験がなかったので基本的な情報収集することや、基板レイアウトの検討、組み込みソフト開発環境の理解やケース設計に関することなどです。

さくらのセキュアモバイルコネクトを採用

LTEに関する用語を把握するところからの開始でしたが、セキュアモバイルコネクトのお試しキャンペーンを活用していただいたこともあり、SIMを活用したLTE通信が実現できました。

具体的な課題と解決方法

アンテナの選定には苦戦。小型化を目指すため、プリント板実装タイプと外部アンテナのメリットデメリットを検討。LTEアンテナだけでなく、GNSSアンテナも必要であり検討項目が多い。
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外部アンテナの選定では、さくらインターネットの技術情報を活用

技適などLTE関連規格の調査と確認
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nRF9160を選定した事で今回の試作では特段の作業が不要であった

将来的にはチップ型の採用も検討している。SIMの選定も手探り
 ↓
さくらのセキュアモバイルコネクトはマルチキャリア対応でチップ型SIMもあり、SIMがお試しキャンペーンで3カ月無料で利用できたことは、大変に助かった。SIMの導入も説明資料が完備されていたので、特に迷うことなくあっけないくらい簡単だった。

メイン基板のレイアウト検討に時間を要した

外部アンテナや、ヘルメット内基板など外部接続が多く、コネクタの配置/ケーブル布線ルートの検討項目が多岐にわたり、想定以上に時間を要した。

組込みソフト開発環境の理解

nRF9160用の開発環境(nRFConnect SDK、VS Code)が初めてであり、devicetreeやKconfigなどの理解に時間を要した(担当は約30年ぶりの実務復帰から4カ月)

ケース設計

  • 社内に機構設計担当がおらず、ケース設計はペンディングに
  • 当初は100均の透明ケースを利用したが、屋外での直射日光が思った以上に影響大
  • 白色のプラ板を使用してトライ&エラーを繰り返し、温湿度をリファレンスと同等の精度レベルに近づけるのに時間を要した

今後について

このように屋外で作業をする従業員の健康管理やケガの防止においてIoTは、ヘルスケアの分野でウェアブルデバイスの技術が進んでいます。伸和プリント工業様は、生体センサーの精度向上とともにセンサーの小型化で省電力通信を実現することを目的に、引き続きIoT技術を活用し実用化に向けて取り組んでいます。

WBGTセンサー試作のエンハンス

  • 生体センサーと組合わせ、個人毎のリスクを詳細に把握できる様にする
    ・ ヘルメット内温湿度の評価(各人のWBGTとの関係性)
    ・ 加速度センサーによるふらつき検知
    ・ 心拍センサー、発汗センサーなどへの対応
  • センサーユニットの更なる小型化、省電力化
    ・ 屋外利用に向けての防塵/防水対策の検討
  • さくらインターネットのサービスを活用した今回の試作開発で得られたノウハウを活かして、当社の得意技術(IoTユニットの設計/製造)を提供できる機会があれば幸いです

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回の試作開発で、伸和プリント工業様から「SIMがお試しキャンペーンで3カ月無料で利用できたことは大変助かりました」という好評をいただくことができました。また、「SIMの導入も説明資料が完備されていたため、特に迷うことなく簡単に行うことができた」といったお声も頂いております。
試作開発の成果として、伸和プリント工業様はさくらのセキュアモバイルコネクトの機能を十分に評価することができ、ノウハウも得られたということで、今後はさくらのセキュアモバイルコネクトを活用した受託開発をご希望のお客様に対して、伸和プリント工業様の得意技術であるIoTユニットの設計・製造と、設計・製造技術を掛け合わせた、新たなご提案ができるのではないかと期待しております。
伸和プリント工業様、ありがとうございました!

伸和プリント工業株式会社 会社概要

本社所在地:〒193-0801東京都八王子市川口町1487-48
設立年月日:1982年(昭和57年)2月
代表者:山田 規雄
資本金:10,000,000円
決算期:3月
従業員数:65名
事業内容:プリント配線板に関わる業務(設計・製造・実装・販売)
URL:https://www.shinwa-print-ind.co.jp/

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構成・執筆・編集
DX事業部

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2024年1月公開