さくらのIoT

高専ワイヤレステックコンテスト (WiCON) は、全国の高専生を対象としたワイヤレス技術に関するコンテストです。2023年に開催されたWiCONでは、さくらインターネットが提供する「さくらのクラウド」とIoT SIM「さくらのセキュアモバイルコネクト(セキュモバ)」を無償で提供し、利用していただきました。
今回の記事では、実際にセキュモバを利用したチームのレポートをご紹介します。

旭川工業高等専門学校

サービス開発の経緯

私たちが生活している北海道上川地域は、冬期にはトータルで数mの積雪がある地域です。加えて、旭川市は、人口30万人以上を抱える札幌に次ぐ北海道で人口が多い都市でもあります。
そんな旭川にある高専で学んでいる私たちに対して先生から、今の除雪作業の以下3つの問題を高専で何とか解決できないかというお声がけをいただきました。

  1. 除雪後の道に雪を捨てる人がおり作業が滞っている。また、個別に対応するときもある。
  2. 除雪作業を行える人材育成の難しく、若い人も少ないため深刻な人手不足かつ高齢化が進んでいる。
  3. 行政において、冬の期間にたくさんの除雪に関する意見が届くが、対応に限界が生じてきている。

問題の規模が大きく、メンバーの親御さんも除雪作業で大変な思いをされていることもあり、何とか解決したいという想いでチャレンジすることにしました。早速、先生の尽力によって、関係各所でのヒアリングや実際の現場の見学が実現。実際の状況というのを目の当たりにして、WiCON2023に参加し資金を得て本格的に開発することにしました。

ヒアリングの様子
見学の様子

具体的にやったこと

今回はアナログ的に業務が行われてきた除雪業務をICT・AIにより、デジタル化するシステムの実証実験までを行いました。具体的には、除雪業務・報告をデジタル化できるシステムをコアとして、一般市民も利益を享受できるシステムを開発しました。
システムとしてはスマホアプリとWebサイトを作成して、「除雪状況報告機能」、「道路境界の可視化機能」、「除雪業務確認機能」の三つの機能を提供しました。

まず除雪状況報告機能は「除雪後の道に雪を捨てる人がおり、作業が滞っている。」という問題解決と報告書作成の手間をなくすための機能であり、作業をしながら自動的に業務の様子を報告することで、住民が捨てた雪なのか判断するための証拠写真を得ることができます。除雪車が除雪経路を走行する際、ダッシュボードにスマートフォンを設置して、自動で除雪状況を撮影した画像と位置や時刻情報を取得。さくらのクラウド上のサーバへ送信し、管理を行えるようになっています。

次に、道路境界の可視化機能について。この機能は歩道の縁石が雪の下に埋まっているが、地元の人でなければ除雪作業が行えないといった問題に着目し、誰でも作業が行えるように人手不足の足掛かりを目指しました。実現することで「除雪作業を行える人材育成が難しく、若い人も少ないため深刻な人手不足かつ高齢化が進んでいる」という問題解決に繋がります。具体的には、降雪前の道路画像と除雪状況機能において撮影した報告画像との特徴点マッチングを行い、道路境界を描画する処理と画像生成AIを使用して評価し、精度の高い方を結果として選択する道路境界可視化済画像の生成をサーバ上で行いました。しかし、実証実験段階ではデータ数が不十分であっただめ、精度がかなり低いものとなってしまいました。

最後の除雪業務確認機能は「行政おいて、冬の期間にたくさんの除雪に関する意見が届くが、対応に限界が生じてきている。」という問題に対して、いつ除雪がどこにくるのかというのをWebサイト上においてリアルタイムで地図上にピンと画像が表示され、誰でも見られるようにしました。

※ さくらのセキュアモバイルコネクトはLTE(4G)のみの提供となります。
実証実験で得られた道路境界の可視化の様子
除雪業務確認機能によるWebサイトの様子
除雪状況報告機能におけるスマホアプリの様子

大会を終えて(サービスの利用感想)

クラウドサーバは利用したことがなく、最初は初心者でもシステムを構成できるか心配しており、初心者向けの情報量の多さからAWSの利用を考えていました。しかし、開発資金として頂けたお金が想定より大分低く、どこをどう削るか資金繰りを考えた際に定額利用可能なクラウドサーバというのは大変分かりやすく、安心できるということで、無償提供の話をいただく前から「さくらのクラウド」を利⽤しようと決めていました。
また、当初はしっかりと構成が出来るのかといった悩みもありましたが、実際に使いはじめると、しっかりした公式ドキュメントのおかげで、すぐに解消されました。また、撮影実画像の管理には「さくらのオブジェクトストレージ」を利用しましたが、APIの構築において、PythonのフレームワークであるDjango REST frameworkと、django-storagesを活用。車輪の再発明をせずに「さくらのオブジェクトストレージ」のサイトに表示されている値をAWS用の設定値に代入するだけで、AWSの S3 用の Django File Storage API で画像ファイルへのアクセスが実現し、全く苦労せずにデータ管理の基盤が整って、とても感動しました。

今後について

現状では、作成したシステムを応用した機能の開発、作成したAIの精度向上に取り組んでいます。具体的には、夏の道路の画像からマンホールや橋の接合部などを検出し、その分類と位置を取得する「道路面上の突起位置ができるAIの作成」を行い、注意点のアナウンスを行う機能の作成も行う予定です。これにより除雪車のグレーダー操作の難しいとされている部分を解決します。
また今年だけではデータ数に不足があったため、断続的にデータを集めて道路境界表示機能の精度向上に取り組んでいきたいです。そして、最終的にはシステムとして形にし、低コストで除雪作業のDX化を実現していきたいと考えています。

グレーダー

まとめ

WiCON2023表彰式において、本選大会には出場できませんでしたが、建設・土木業界のDXに繋がる提案ができたために、安藤ハザマ賞を受賞できました。また北海道の予選大会を勝ち抜いて、全国起業家甲子園に出場することができ、今後もシステムの改善、継続を続けていきたいです!

米子工業高等専門学校

サービス開発の経緯

私たちの住む鳥取県は、梨・スイカ・長いもなどの農作物の生産が盛んである。一方でカラス等の鳥類による果実や野菜などの食害は、最も大きな農作物被害の一つで深刻な問題となっています。とくに、カラスは学習能力が高く、空砲や反射材といった既存の対策ではすぐに慣れて効果が持続しませんでした。そこで、食害を低減するために「深層学習を用いた物体検出」と、鳥類威嚇に効果的と考えられる「追尾型自律ドローン」を用意し、このふたつをWi-FiおよびLPWA等のワイヤレスIoT技術で連動させ、カラスを追い払うシステムを開発。

具体的にやったこと

以前出場したWiCON2021ではドローンは市販品を使用しておりましたが、ドローンが廃盤となり、後継モデルが非常に高価なものになってしまいました。それにより、コスト削減のためにドローンを自作し、カスタマイズ性の向上・低コスト化を実現。カスタマイズの具体的な内容としては、放水システム・LiDARセンサー・GPSモジュール・Raspberry Piとなります。これらのハードウェアを自分たちの用途に合わせて搭載し、放水システムの検証・シミュレーター上でのカラス追尾を行いました。放水システムについては、水鉄砲の中身のノズル部分を取り出し、外枠を3Dプリンターを用いて箱を作成し、ドローンに取り付けやすいように加工しました。
さらに、新たにユーザー向けサービスとしてLINEでドローンの離陸を通知するサービスを作成しました。

大会を終えて(サービスの利用感想)

アップデートした自作ドローンでの実証実験を行えなかったことが心残りです。ドローンの挙動が非常に不安定であり、技術的な不安要素が残っていたことが原因であると考えます。しかし、シミュレーターを使用することで事前事故を防止する工夫が行えたのは収穫であると考えます。さらに、ユーザー向けサービスの構築を行いビジネス化に近づけることができました。

今後について

給電・給水等に課題が残っているため、今後は係留などの工夫を行い、今回のような課題を対処していくことが必要です。そのほかにも複数ドローンを使用して連携させた追尾方法を構想しています。これにより、カラスをしつこく追い払うことが可能になり、神経質であるというカラスの性質に対応したシステムに近づけると考えております。

まとめ

カラスによる農作物への食害を防止するべく、ドローンと物体検出を組み合わせたシステムを開発しました。以前は市販品のドローンをプログラミングすることで制御していたのですが、コストやカスタマイズ性の面に課題を抱えていました。これを解決するために、ドローンを自作し、過去に使用していたものでは搭載できなかった機能(LiDAR、放水システム、Raspberry Pi、レーザーポインター)を追加で搭載することが可能となり、カスタマイズの自由度の向上や低コスト化に寄与することができました。今後は複数ドローンの連携や、係留による給電・給水機能の実装のために、システムの改良を行っていく方針です。

佐世保工業高等専門学校

  • チーム名:Team SOME-RISE
  • 提案名:See-Side救わっど -マリンデブリモニタリングシステム-

サービス開発の経緯

長崎県対馬市の海岸には例年、大量の海ごみ(ブイやペットボトルなど)の漂着が問題となっています。海ごみの問題を解決するために、海岸まで人が出向きごみの調査などを行っているが、海岸に足を運ぶことは簡単ではなく、必然的に調査頻度は低くなっている状況である。チームの目標は「海ごみに関する問題をワイヤレス通信の技術を用いて解決すること」と置いています。
具体的な施策としては、海岸にカメラを設置し、取得した海ごみに関するデータを無線通信技術でWebページに表示するといった内容です。この一連のシステムの流れを確立することで、海ごみの状態をいつでも・どこでも確認することが可能となり、リアルタイムに海岸の状態を確認できるようになります。
今回の本システムを開発では、Webサーバとサーバまでデータを送信するためのLTE通信部分を、さくらインターネット様からご提供いただいたサービスを利用してシステム開発を行いました。

具体的にやったこと

  1. 海岸に設置したカメラで撮影した海ごみに関するデータをクラウドから取得
  2. LTE通信モジュールを搭載したゲートウェイに送信
  3. さくらのモノプラットフォームへデータを送信

送信されたデータはAPIの一種であるWebhookを用いて、さくらのクラウドに構築されたサーバに送られ、Webページに表示されます。(図1)。

(図1)実際のWebページ

大会を終えて(サービスの利用感想)

  • システムの開発において、APIの開発に苦労しました。
  • さくらのモノプラットフォームの仕様を理解するまでに時間を費やしてしまいました。
  • サービスを深く理解することができませんでした。

具体的には、さくらのモノプラットフォームから取得したデータをテキストファイル上に保存することは、サービスの仕様上困難ということを理解するまでに時間を費やしてしまいました。また、公式のページに記載されている手法について検証しても結果が同じではなかったなどの問題もありました。もし、来年度のWiCONでも利用させていただけるのであれば、さくらインターネットからのレクチャーなどがあると、生徒は助かるのではないかと考えています。

今後について

今後は、海ごみのデータをデータベースサーバに構築し一括管理をすると同時に、さくらのクラウドおよびさくらのモノプラットフォームの仕様について理解を深めていきたいと考えています。

まとめ

1年間サービスを利用させていただいたおかげで、無事に一連のシステムを構築することに成功しました。また、実際に手を動かしてみることでサーバ構築についての知識を深めたと同時に、難しさを知ることもできました。今年度の経験を踏まえて、来年度からはデータベースについての知識についても深めていきたいと考えています。

沖縄工業高等専門学校

  • チーム名:チームNFF
  • 提案名:沖縄北部の固有鳥ヤンバルクイナのロードキル防止と確かな保護観察 クイナート

サービス開発の経緯

現在、沖縄県北部地域では、国の天然記念物であるヤンバルクイナなどのロードキルが問題となっています。民間組織や行政がロードキル防止のために立て看板や拡声器を使って対策を実施したことにより、最盛期に比べてロードキルの数は減少していました。
しかし、近年その減少も頭打ちになっています。さらに、沖縄県北部では大型のリゾート開発が行われており、今後数年で観光客の増加が想定されています。その影響で、減少していたロードキル数が上昇すると考えられるため、我々は現在行われているロードキル対策の改善点を改良し、更なる効果が期待できる野生動物保護装置「クイナート」の開発に着手しました。

具体的にやったこと

「クイナート」では、AIを用いて道路に飛び出した野生動物の発見を確実に行い、LPWA回線を用いて電光掲示板とスマートフォンで通知を行います。また、ヤンバルクイナの生体情報やナワバリを記録し、ヤンバルクイナがとくに頻繁に出没する場所や交通量の多い道路などのリスク要因を特定し、適切な保護対策を行います。
今大会では、主にヤンバルクイナの生体情報を集約するためのDBとして活用しました。しかし、バックエンド(サーバ)の開発経験が乏しかったこともあり、実用的な利用ができるまでの開発には至りませんでした。

大会を終えて(サービスの利用感想)

先述の通り、実用的な開発には至らなかったが、レンタルサーバを活用したDB作成や管理、実用化に向けた取り組みを行いました。レンタルサーバを利用してみて、自分でサーバを用意する手間や費用を節約でき、サーバのセットアップや設定に関してもプロバイダ側で行われていたため、迅速に開発に着手できることがわかりました。

今後について

「クイナート」は実用的な使用だけでなく、システム全体で使用するサーバとなるため、設定やリソースの利用状況を分析し、最適化を行うことで、ユーザ体験の向上に繋げます。
ユーザ情報やシステムの安全性を確保し、サーバと共に信頼性の高いサービスを目指します。また、ユーザからのフィードバックに基づいてシステムを改善し、新たなニーズに対応する機能補充を行います。
最後に、サーバを活用した柔軟な開発体制を維持することで「クイナート」がより安定し、使いやすく、ユーザにとって価値のあるサービスとして成長していくことを目指したいと思います。

まとめ

「クイナート」は、沖縄県北部地域におけるロードキル対策の改善と野生動物の保護を目指すための重要な取り組みでした。
今回は、レンタルサーバを活用し、DB構築や管理、システムの実用化に向けた取り組みとなりましたが、レンタルサーバを利用することで、サーバのセットアップなどにかかる手間や費用を削減し、迅速な開発を実現できました。
今後は、「クイナート」システム全体で使用するサーバとして、実用化に向けての取り組みと同時に、設定やリソースの最適化を行い、ユーザ体験の向上に努め、さらには、セキュリティの強化やユーザからのフィードバックをもとに機能補充を行い、柔軟な開発体制を維持しながら、サービスの安定性と使いやすさを向上させていきたいです。これらの取り組みを通じて、「クイナート」はユーザにとって価値のあるサービスとして成長し、地域の野生動物保護に貢献していくことを目指したいと思います。

まとめ

以上、各高専生のみなさまによる社会課題を解決するための素晴らしい取り組みをご紹介させていただきました。地域の課題を深く理解し、独創的なアイデアで課題解決に向けて邁進されている姿がとても印象的でした。また、当社のサービスを活用しながら積極的に試行錯誤を重ねていただき大変うれしく思います。皆さまにいただいたご意見・ご要望にお応えできるよう、努力を重ねてまいります。

さいごに、今回の記事がこれからの日本における様々な社会課題を解決しようとする方々の参考になれば幸いです。
そして、高専生のみなさまおつかれさまでした!

構成・執筆・編集
事業開発部

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2024年5月公開