IoT医療の進化、課題、そして未来
医療業界のIoTは、第4次産業革命と関係性もあり「医療4.0」とも呼ばれます。歴史を見ていくと「医療1.0」は1960年代に保険制度が実現し現代の医療提供体制の基礎ができたことです。「医療2.0」は1980年代に高齢化が懸念されている中で老人保健法の制定や高齢者保健福祉10カ年計画であるゴールドプランが策定され、今につながる介護施策が進んできたことです。「医療3.0」は2000年代にインターネットが普及し電子カルテをはじめとした医療のICT(情報通信技術)が進み同時にデジタル化が普及したことです。これからの医療は今まで培ってきた医療から更に進んだ、第4次産業革命時代の様々な革新的科学技術により台頭するのが「医療4.0」と呼ばれているものでIoTやAI、ビッグデータやクラウドなどとの関連性も重要になってきます。
IoT医療とは?
IoT医療とは様々なモノがインターネットに接続する技術を用いた医療のことです。医療4.0の観点では医療との接点が医療機関以外にも広がる「多角化」、個人個人に応じたオーダーメード化が進む「個別化」、そして医療の主体が患者自身に変わっていく「主体化」が特徴です。従ってIoTで多角化、個別化、主体化を実現できることとしては、モノとインターネットを活用した医療で患者の「治療」だけではなく、健康な私たちにも「予防」という観点でも多くの人たちに提供できる医療が広がると考えることができます。例えば、人間の体温や活動量、血圧、脈拍、血糖値、脳波といった生体がIoTデバイスで収集され、デジタル情報として可視化されていきます。また遺伝子検査で自分自身の遺伝子情報を把握すれば、太りやすいといった体質や、罹患(りかん)の可能性が高い疾患を把握できるようになります。検査も現在よりも侵襲度(身体を傷つけてしまう度合い)が低いものが登場する可能性もあります。このように様々な個人の健康情報が収集される「ビッグデータ」としてまとまっていくことにより、データを適切に判断する人材やAIの活用でIT業界との連携も今後は更に強くなることが期待できます。ビッグデータをもとに個人にあったオーダーメードの治療方針が提案されるようなことになったり、健康な私たちも主体的に健康維持のため予防の観点で日本医師会が提唱している「セルフケア」を更に進める未来が来るでしょう。
IoT医療の概念とその適用
第4次産業革命に関係する技術が医療にも導入されることがあります。産業界では、ネットワークで情報をつなぎ、人工知能(AI)を活用して生産や流通などの産業を自動的に最適化させることが試みられています。
IoTの利点はモノがインターネットにつながっていることで、遠隔でモノの状態を確認したり指示できることです。確認と指示は人間だけではなくAIが自動で行うこともできます。モノから自動的に蓄積される膨大なデジタル情報(ビッグデータ)をAIが分析できるようになれば、特定の分野に関しては人間が判断するよりも速く正確になります。AIは自動でアップデートすることにより、その速さや正確性も更に進化し続けていきます。
第4次産業革命に関する技術
医療では大きく2つの変化があると考えられています。一つはオーダーメード化が進むことです。消費者は従来、大量生産された品物の中から自分好みの品物を選ぶ受け身の姿勢を取ってきました。第4次産業革命では、消費者自身が最初から自分好みのサービスを受けることが可能になります。医療業界に限らず消費者のニーズに応じてサービスがオーダーメード化されてきますので、健康と医療のサービスであるスマートヘルスで、人々の個別に応じた医療・福祉サービスの質の向上や、患者や利用者のQOL(生活の質)の向上を目指すために、予防医療の促進、医療の効率化・高度化、患者の主体性の向上を目的にして取り組むようなサービスに変化していきます。消費者それぞれの好みにあったオーダーメードビジネスが、さらに広い領域で可能となる時代を迎えます。もう一つは新たな付加価値が提供されるサービスが出現するようになることです。今までは商品を売った時点で多くのビジネスが終わっていましたが、IoTを活用してアフターサービスにつなげる方向に変わっていきます。少子高齢化社会が顕在化している日本においても、第4次産業革命に関する技術を活用し、健康長寿社会の形成や経済成長につなげることが求められています。
5G時代のIoT医療とその展望
IoT、AI、ビッグデータ、ロボティクスは代表的な技術として医療分野でも進化するものです。時期を同じくしてVR、AR、MR、や次世代の高速携帯通信規格の5G、ブロックチェーン、BMI、などの新たな技術革新も進んでいます。5Gとは、高速大容量、低遅延、多数接続を実現した通信技術です。高画質な動画や映像のリアルタイム配信、大容量データのダウンロード、自動運転、遠隔医療、IoTなど様々な分野で活用できる重要な技術として、さらなる技術革新をもたらすと考えられています。以下に代表的な技術と説明をまとめました。
名称 | 説明 |
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IoT (Internet of Things) |
家電や車、衣類、建物など、身の周りの様々なモノがインターネットにつながること。これまで測定されず埋もれていた様々なデータを収集・分析し、連携させることができる。 |
人工知能 (AI:Artificial Intelligence) |
人間の頭脳が行う知的な作業をコンピュータで模索したソフトウェアのこと。深層学習(DeepLearning)によりコンピュータ自身が情報を自動的に学べるようになった。画像や文章、音声などの認識や、物事の予測、最適化などに活用される。 |
ビッグデータ | 役立つ知見を導出するために蓄積された膨大なデジタルデータの集まりのこと。 |
ロボティクス | ロボット工学のこと。ロボットの設計・製作・制御だけではなく、ロボットに関連した科学研究全般を示すこともある。自動化や人の運動や感覚の拡張として利用される。 |
VR (Virtual Reality:仮想現実) |
CGや動画で作った映像の世界(仮想現実)に実際に入り込んだかのような体験ができる技術。 |
AR (Augmented Reality: 拡張現実) |
現実の世界に仮想の世界やデジタル情報を重ねて「拡張」する技術。3D映像などの現実の風景と重ねて投影する。 |
MR (Mixed Reality:複合現実) |
目の前の空間に様々な情報を3Dで表示して、自由な角度から見たり、複数人で情報共有できる技術。 |
5G | 4Gに続く次世代の高速通信規格。超高速だけではなく多数接続やタイムラグがなくなる超低遅延を実現する技術。 |
ブロックチェーン (分散型台帳) |
参加者全員がインターネット上でデータを持ち合うデジタルデータの記録帳。データの書き換えや改ざんが困難かつ検証が容易。 |
BMI (Brain-Machine-Interface) |
脳から情報を感知してコンピュータやロボットを動かすこと。BCI(Brain-Compuer-Interface)とも言う。 |
このように5G時代は従来のITを用いつつ、様々な新しい技術を組み合わせてビジネスをする時代になります。医療業界でも5G通信を活用し、新しいITを活用したビジネスを通じて、様々なサービスの誕生が期待できます。
IoMTとは何か?
IoMT(Internet of Medical Things)とは、医療機器とヘルスケアのITシステムを、オンラインのコンピューターネットワークを通じてつなぐ概念です。 具体的には、病棟であれば医療機器・施設・患者をインターネットで結び、患者の安全性とサービスの向上、医療の効率化とコスト削減、新薬・新治療法の開発などのメリットが期待できます。
ウェアラブルデバイスやスマート機器等のIoTデバイスの利用
ウェアラブルデバイスとは生体のデジタルデータを収集するために身につけるタイプのIoTデバイスのことです。医療業界では様々なウェアラブルデバイスが登場しており、主流は腕に巻くタイプの腕時計型やリストバンド型と呼ばれるものです。体温や活動量、血圧、脈拍などを測定でき、製品としては、アップルウォッチなどが存在します。リストバンド型のIoTデバイスによって生体データを取得するだけではなく、疾患へのアプローチに利用しようとするものも開発されてきています。リストバンド型のデバイスは、継続的に腕に巻いておくことが課題です。腕時計などを普段使用しない人にとっては、継続的に利用することは高いハードルになるため、耳などの他の部位に装着するデバイスや、すでに身につけている肌着や靴、メガネなどにセンサーを付加する開発も行われています。
またIoTはこのような生体情報を取得するデバイスだけではなく住居においてある家電製品などにも対応していきます。例えば、夏になると熱中症をになる人が増えますが、適切な室温管理などの住環境を整備すれば予防できるため、IoTデバイスを身に着けている人の生体データから住居のエアコンが自動的に調整されれば、熱中症を未然に防止することもできます。熱中症つながりですが、防止対策としてIoTデバイスを業務で活用している事例をご紹介します。屋外で作業をする作業員のヘルメットにセンサー機器を取り付けた事例で、さくらのセキュアモバイルコネクトを利用し通信をしているIoTデバイスをご紹介します。
医療現場におけるIoTの活用(デジタル医療)
医療現場の課題は主に医療従事者や医師の長時間勤務です。主に以下の問題が医療従事者の労働に大きな負荷がかかっており重要な社会問題となっています。従業員や病院環境にも対策が行われており以下の表で実施されています。
課題 | 対策例 |
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長時間労働の問題 |
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医療機器への問題 |
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位置情報を利用して 出退勤を自動記録 |
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またIoTは患者のリハビリでも活用されていたり、病院の運営面でも多くの場面で活用できます。さらには研究開発の分野でも活用され医療の質の向上や効率化などにもつながります。
オンライン診療の普及
しかし医療現場の長時間労働の問題が根本的には解決されないため遠隔医療(オンライン診療)の導入が始まっています。オンライン診療とは医療機関で医師の診療を受ける際と同様、リアルタイムの映像と音声の通信でオンライン上で診療を受けることです。オンライン診療は医師の負担も軽減することができます。具体的には、長時間勤務の課題にも医師の勤務時間や勤務場所を柔軟に調整できる点や、患者の受診集中を緩和し医師の勤務時間を平準化できること、また医師の在宅勤務や遠隔勤務を可能にし医師の労働環境の改善が可能であること、そして医師の業務効率化を図り、医師の負担を軽減できることなどが挙げられます。
患者の観点では次のようなメリットがあります。通院して医師の診断を受けるなど定期診断のような患者であれば、オンライン診療で服薬指導や、ウェアラブルデバイスで計測した血圧や脈拍、歩数などのデータを共有しながら診察を行うこともできます。遠方で通院が困難な患者でも自身が持っているスマートフォンやパソコンを使って誰でも受診することが可能です。
リハビリ領域でのIoT利用例
iPadアプリとスイッチコントロールの連携を例に、医療器具との連動やIT機器との連携の利用例を説明します。
入力補助機能 | 意思伝達装置としての利用例 |
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ニューマティック センサースイッチ |
触覚センサー、傾きセンサーを利用し、人間の握力など触覚で文字入力を行う装置 |
アイトラッキング | 目線での文字入力と定型文の登録で、よく使う言葉での意思伝達を行う |
スマートスピーカー |
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またこれらの機器の導入に当たり以下のことを事前に調べておくと医療提供者と患者の連携が円滑に進むことが期待できます。
項目 | 説明 |
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デジタル機器に 対する知識 |
患者が健康なときに知識を身に着けておくこと、また看護師チームのメンバーも知識を身につけることで活用できる場面が増えてくるでしょう。 |
補助金制度 | IT機器は高額なので制度を利用すると良いでしょう。またIT機器の補助は対象外の物が多いため事前に調べておくことも必要です。今後は対象範囲の拡大により導入の機会が増加することが予測できます。 |
インターネット環境 | 患者向けのネットワーク回線は提供していない病院が多いです。しかし今後は5Gが普及すれば病院内のWi-Fiに頼ることもなく快適な通信が出来るでしょう。 |
病院のIoT利用事例
病院でのIoT利用事例は大きく3つの分野に分類されます。1つ目は「患者のケアと診療」です。ウェアラブルデバイスの活用で患者の体温や脈拍数などをリアルタイムでモニタリングし、遠隔医療で患者の状態を遠隔地から診察することができます。2つ目は「病院の運営」です。IoTセンサーを活用することで病院内の設備の稼働状況や故障状況をリアルタイムで把握することができます。故障を未然に防止したり、修理の効率化に繋げたりすることができます。また薬剤の管理もIoTタグを活用することで在庫状況や使用状況をリアルタイムで把握することが可能となり、在庫切れや適切な使用を促進することができます。またIoTを活用することで病棟内の監視カメラなどから患者の位置や状態をリアルタイムで把握することが可能となり、医療スタッフの配置を効率化したり、患者の転倒防止につなげることができます。医療スタッフや医師の長時間労働防止にもIoTを活用し、勤怠時刻の管理の精度を上げることや、遠隔医療を活用し医師の過労防止につながる施策もIoTを活用して実施できることです。3つ目は「研究開発」の分野です。患者の遺伝子情報の解析から新たな治療法の開発や、病気に対する今後の予測などに役立てる事ができます。医療機器の開発でもIoTは活用されており、いままでより高精度な医療機器を開発することが可能となり、患者の治療や診断の精度向上にもつなげることができます。
スマートホスピタルの現状とその利点
スマートホスピタルとは、ITやIoTなどのデジタル技術を活用して、医療の質の向上、医療の効率化、医療従事者の働き方改革、患者の利便性向上などを実現する次世代型の病院です。現状のスマートホスピタルはまだ発展途上と言えますが、近年では政府や企業の取り組みにより、多方面で導入が進みつつあります。病院のIoT利用事例でも取り上げた内容ですが、患者のケアと診療の精度向上、病院の運営効率化、研究開発の推進の分野で利点があります。スマートホスピタル導入により、医療の質の向上、効率化、医療従事者の働き方改革、患者の利便性向上などの実現が期待できます。
EHRクラウドの導入で医療介護機関同士が連携し、人々はどこにに住んでいても切れ目のない医療や介護サービスを受けられるようになります。EHRとは電子健康記録のことで、患者の情報をデジタルデータとして保存し、医療機関同士連携することを「地域医療連携ネットワーク」と呼び、地域全体で住民の健康を守る仕組みとなっています。複数の医療・介護機関で距離や時間帯の制約なく患者の正確な診療状況が把握できると、関係者間のコミュニケーションが増え、紹介や逆紹介、転院、救急搬送時の連携が円滑に進むなど、切れ目ない医療や介護サービスの提供につながる効果があると考えられます。
IoT医療の課題とその対策
医療業界にIT導入することは小さなクリニックなどを含めると発展途上といえます。情報セキュリティの問題、投資リスクに伴う利益が伴わない、高齢医師が多くITリテラシーが低い、ITインフラ整備が整っていない、保険適用の範囲が狭いなど様々な課題が存在します。これらの課題解決には、医療・福祉業界だけではなく、IT企業、製造業など他業種との発展や、行政機関の支援制度の拡充など、日本の医療ビジネス発展のために多方面の連携が必要とされます。
セキュリティ問題(プライバシー保護とデータ保護対策)
IoTを利用したオンライン診療では個人情報を取り扱うためセキュリティを確保した通信手段が必要とされます。具体的にはウェアラブルデバイスから収集したデータや、リアルタイムビデオ通信や診療費のオンライン支払い、薬の配送支援までが含まれた通信システムのサービスを展開している企業も存在し、これらのサービスは2023年現在では約2,000の医療機関で導入されています。国内診療所の総数は10万件以上存在しオンライン診療の導入率はまだ2%で始まったばかりと言えますが、今後はさらに普及することが期待できます。
必要な投資とリスク、ITインフラの整備、法律の課題
医療業界にITの導入は困難な点が数多くあります。最も深刻な問題は、医療現場は慢性的に多忙により余白がないという現状です。IT導入により業務フローの変更は生じるものであり、医療現場に浸透するまでは一定の期間が必要とされます。その間にも患者は毎日病院に訪れ、医師は診察をし患者のケアをし続ける必要があります。その他にも高齢医師が多くITに馴染めないことや、保険適用の範囲が限定されているなど様々な課題が存在します。
高齢医師のITツール導入の障壁
パソコンやスマートフォンを使用するため高齢患者が使いにくいことも障壁ですが、医療機関側の導入障壁にもなっています。医師は高齢になっても仕事を続ける人が多い職業です。72歳になっても約半分の人が現役で医師を続けているデータもあり、一般的には高齢になるほどスマートフォンやパソコンとの親和性が低いので、中々使いたがりません。例えば高齢の医師が医院長として一人で診察しているクリニックなどでは、オンライン診療のシステム導入は難しくなる場面が多くなると考えることができます。
医療現場の慢性的な多忙により変化が困難
医療現場は変化の余白が取れないくらいに慢性的に忙しく、医療機関の働き方改善も困難です。良い医者がよい医療を提供していれば自然と通院患者が増え、待合室の椅子に座りきれない程になることが普通にあります。クリニックの経営の観点からも患者が増え続け回転率を高めることで経営効率も良くなることから、常に多くの患者を集めようとします。また、オンライン診療の運用になれるまでの初期導入コスト以上に医療機関は一般的に変化を嫌い、業務フローが変わる場合などは特にその傾向は顕著になります。
診療報酬改定に伴う保険適用の限定
現在の保険制度では今まで通り医師と直接合って対面診療したときに比べ、オンライン診療を行ったときの診療報酬(保険点数という医療行為に対して支払われる価格)が低くなります。対面診療で話したり確認していたことをオンライン診療で省略するわけでは無いので、診療時間はどちらも同じくらいかかります。そのため、オンラインでもオフラインでも時間は同じくらいかかるのに、医療機関の売上は下がってしまうという実情もあります。この課題のためにオンライン診療を導入しないと決めた医療機関も存在します。
このようにクリニックとしての診療報酬(売上)が全体的に下がる場合は、初期投資に多額の費用がかかり、ランニングコストでも通信費用や医療関連のITシステム利用料を支払うため、導入に対して見返りが、思ったより悪くなることも懸念点となる可能性もあります。
IoT医療への期待と未来のビジョン
IoT医療が進化する過程で課題となるのがデータの保管場所です。現在の日本では患者の医療情報は分散しており、病院ごとに患者と問診をしなければ医療機関側は情報を手に入れることができません。非効率や伝わらないリスクを減らすためにPHR(Personal Helth Record)という個人の健康に関する記録を、ビッグデータとして記録することで医療機関同士が共有できることも目指す必要があるかもしれません。
データ取得から診断、治療までの一貫システム
オンライン診療と医療データ事業で、医療をより患者に近づけることが期待できます。近年デバイスやセンサーなどの技術革新により、食事や運動などが比較的低コストで記録されるようになりました。これにより、病気に関するデータと病気以前のデータを記録し、本質的な課題解決に必要なデータを活用できます。保健医療データを統合した情報基盤の整備がさらに進めば、IoTを活用した医療も進むでしょう。
高齢者医療や患者サポートの可能性
少子高齢化が進む中、高齢者の人口は増加しつつ働き手が少なくなる社会問題で、医療業界も医療従事者や介護、福祉関連の人材や医者の不足により、今までより患者のサポートが困難になることも大きな課題です。IoTを活用した医療では、病棟での入院からオンライン診療による自宅での療養に変化し、介護士不足を補うためのロボティクス事業をはじめとした介護ロボットの活用で、高齢者患者のサポートを継続し続けることが期待できます。
IoT医療の未来
日本が目指すこれからの医療は、産学官が連携をして進める「医療データの全国的な連携基盤の実現」と言えます。研究に必要なデータがあれば、セキュリティを保ちながら分散している様々なデータを手元に一手に集め、これまでにない精度の分析が可能になります。ある意味、非常に高品質な「データインフラ」が整うとも言えるわけで、今後のデジタル医療の研究開発や社会実装は、この環境にふさわしい別次元の取り組みが必要であるといえます。研究による新しい治療法や新薬開発などにも利用できるため、医療データの連携基盤が進むとIoTをはじめとした先端ITを活用して、医療の進化が期待できます。
デジタルヘルスとヘルスケアの未来
医療と健康は深い関係があります。病気を治療するだが医療ではなく、健康維持の予防医療の方が大切であると言われています。IoTをはじめとしたデジタル医療が進むと、健康な私たちも主体的に健康維持のための予防の観点で、医療の主体が患者自身に変わっていく「主体化」の推進が期待できます。ヘルスケアのデジタル化である「スマートヘルス」について考察しましたので次のページをご覧ください。
まとめ
最後にIoT医療についてまとめます。
- IoT医療は第4次産業革命とのつながりもあることから「医療4.0」とも言われる
- IoT医療は、医療との接点が医療機関以外にも広がる「多角化」、個人個人に応じたオーダーメード化が進む「個別化」、そして医療の主体が患者自身に変わっていく「主体化」が重要
- 5G時代のIoT医療はIoT、AI、ビッグデータ、ロボティクス、VR、AR、MR、5G、ブロックチェーン、BMIなどの新しい技術の連携が重要
- ウェアラブルデバイスで患者の生体データを取得するだけではなく、疾患へのアプローチに利用する取り組みも行われている
- オンライン診療の利用による医療従事者の長時間労働の改善、センサー機能搭載のIoTデバイスやタグの利用で医療機器や医薬品の管理の効率化、また、患者のリハビリ用医療機器などでも活用される
- IoT医療で患者主体のオーダーメード化とアフターサービスの継続が重要視されるような医療サービスに変化することが予測できる
- IoT医療の課題はPHRと呼ばれる個人の健康に関する記録の保管方法であり「医療データの全国的な連携基盤の実現」が当面の目標とされている
IoT医療が進めば、新しい病気の治療法が発見できたり、健康な私たちも主体的に健康促進に取り組むような生活を送ることができるでしょう。
IoT導入のメリットをもっと知りたい方へ
- 医療4.0 (第4次産業革命時代の医療) 日経BP社
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